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とある投資家の方が末期がんにかかってしまったことをブログで公表され、著名投資家の方にも紹介されていました。私はこの方との面識もありませんし、病状に関してはご本人でおっしゃられていること以上のことはわからないので病気についてのコメントは差し控えますが、今年母をがんで亡くしたものとして、また一人の内科医としてこの方の回復を願い、たとえ残念ながら完治・完解が難しかったとしても、せめて残されたお時間お元気でいらっしゃることを心からお祈りしております。

そういったお話が私の株仲間の間でも話題になり、健康ということについてちょっとまとめてみました。

具体的には健康でいるためには、あるいは病気にならないためには・・・ということです。検診や人間ドックについてご質問いただきましたので、その点についても改めて調べたり、思ったりしたこともまとめました。

私はがんの専門家ではありませんし、予防医療(健康診断)などの専門家でもありませんので、今ある私の知識ならびに数ある論文の中で、自分なりの考えをまとめました。医者としてまとめているのとともに、母親を亡くしたものとして、心情的なものも含めて書いてあります。

※特にドクターの方々、申し訳ございませんが一般の方を念頭に書いており、参考文献など飛び飛びだったりpaperどおりに出典など書いていない箇所がありますが、ブログですのでその点ご理解ください。

まず最初に・・・

まずこの文章を読まれる前に、医療関係者でない方々に知っておいてほしいこととして、「統計学」と「エビデンス」という言葉を重視することが医療にはあります。医療は皆様が思っていらっしゃる以上に不確定要素・ランダム性・個人差が広いため、

Xという病気が見つかった場合、Aという治療法とBという治療法を比べると、Aのほうが「統計学的に」効果がありそうなので、一般的にはAをお勧めします

というような考え方を医者たちは一般的にします。ここでポイントなのは、100人Xという病気にかかっている人がいた場合、統計学的にも認められているAという治療法が合っている人もいれば、Bという治療法がより効果的だった患者さんもいるかもしれないということです。

たまに、TVなどで「私は医者からダメだといわれたにもかかわらず、〇〇という治療法をしたら治ってしまった!」というようなことをおっしゃっている患者さんがいらっしゃるとおもいます。先ほどのXという病気にかかっている方がAという治療法を先生に勧められたが納得できず、Bという治療法をやったらたまたまその方には適合し、うまくいって完治できた!というケースがこういうときに似ているかもしれません。いわゆる民間療法という方法に走る患者さんもいて、それにがっちりと適合して見事に奇跡のような復活をされる方がいらっしゃいますが、こういった方は交通事故にあうよりも低い確率でその病気を克服した強運の持ち主であるかもしれないわけです。

したがって、このように病気の治療法はどれがご本人にとって当てはまるのかわからないということが往々にして起こりえます。ですが、自分の経験則だけで治療することも危険です。例えば、ある先生はご自身の経験から先ほどのXという病気に対してAでもBでもないCという治療法が効くと信じてやまないと思っているかもしれません。ところが日本中に何十万人というがん患者さんのほんの数百人・数千人みただけでは、その先生の周りにいる患者さんがたまたま運がとてもいい患者さんばかりで集まったりしているかもしれないですから、その先生がほかの病院に赴任して、Cという治療ばかりしていたら本来AかBという治療法で治る患者さんたちを見殺しにしている可能性があるのです。

こういった、経験や勘による医療の格差を避けることが世界中で叫ばれ、現在では「統計学的に明らかに有益だと認められた治療法」をまずは患者さんに提示し、あとは患者さんと相談したり時間経過を見ながら別の有益な治療法を考えていったりしようという治療方法が一般的になってきました。こういった「有益な治療であると認められること」を「エビデンスがある」と表現したりします。

かいつまんで記していますので、医者同士で話す場合と患者さん向けに話すのではかなり異なりますが、私はおおむね患者さんたちにはこのエビデンスや統計学といった話をしはじめるとわかりにくくなるので、

「医療は確率論で動いています。AとBどちらのほうがあなたを治す可能性が高いのか考えて、可能性が高い治療法を提案します。なので、治るかどうかはやってみないとわかりません」

というような説明をします。そう、医療は確率論で動いているものだと思ってください。そこに経験や勘・先生の鋭さや患者さんの様子を見ながら最終的にその治療法を微調整していくものだと思ってください。その微調整が難しいのですが・・・。

健康について考える

まあそもそも健康というものについて議論の余地があると思いますが、精神的なものも含めて病気をしていないことだとここでは思ってください。

私自身、医者の不養生という言葉の通り、運動する時間もなければ人間ドックにもいっていません。後述しますが、人間ドックを一度は受けてみようかなと思いつつ、数年以内に一度受けてみればいいかな程度です。ただ、仕事が落ち着けば定期的な運動はしていきたいと思います。

運動を定期的にしていたほうが健康によさそうだということは皆様何となく感じるかもしれませんが、これは実際に統計学的に認められています。運動したほうが、様々な病気に対して良いということが今までの研究ではわかってきています。したがって、仕事が落ち着けば定期的な運動をしたほうがよい!というのは科学的には正しいと今の時点では言えます。(医学はころころ変わりますので、30年後はわかりませんが・・・)以下のHPによくまとめられています。

日本健康運動研究所

私は個人的に健康への投資というのは、運動をしたり、明らかに悪いといわれているたばこをやめたりすることで、健康で楽しい時間を過ごすために行うことだと思っています。健康でなくなると治療費を払うといったことはもちろんですが、仕事を休職したり休むことになってしまう、あるいは今まで以上に働くことは体力的に難しくなるといったことにできわします。したがって、そうなることを少しでも避けるために、日ごろから運動したり、健康には気を使うといったことを心掛ける必要があると思っていますし、それが健康への投資だと思っています。

とはいえ、なかなかエビデンスがしっかりとある健康方法というのは実は少ないです。たとえば減塩をするといったことに関しても、減塩したほうが長生きするといったエビデンスが確固たるものとしてあるわけではありません。日本人の場合は、塩分摂取量が多いので、おそらく少なくしたほうが胃がんの発生率も下がることから減塩したほうがよいだろうという予測はたてられていますが、その証明は何十年もかかるのでかなり難しいと思います。

私が個人的にこころがけていることは、胃がん発症率低下との関連があるといわれまた高血圧予防が認められている減塩食をこころがけていること、なるべく歩行する(通勤なども含めて)ことくらいですが、今後は定期的な運動というのを取り入れたいと思っています。

しかーし。いつもそういうことを健康を意識してこころがけていたとしても、「やっぱりがんにはなるでしょ?」「いつ脳梗塞になるかわからないのでは?」と皆さん思うと思います。

はい、そのとおりです。例外はありますが、医療に絶対はなく、〇〇をしていたら病気にならないというのは基本的にはあり得ません。日本人の死亡原因を多くを占めるがん・心疾患・脳卒中などの予防には絶対つながるわけではありません。したがって、その不安をとりのぞくため、健康診断や人間ドックがある・・・と考えられています。

がしかし・・・

実は健康診断のエビデンスはかなり少ない

ここでいう健康診断はいわゆる区の検診や会社の検診だと思ってください。がん検診ではありません。採血したり心電図取ったり、レントゲン撮ったり・・・ご経験のある方も多いと思います。しかしながら、健康診断をしたことによって、その方々の寿命が延びたり、虚血性心疾患(心筋梗塞とか)や脳卒中の発生率が下がったというデータは得られていないのがデンマークの研究結果から判明しています。しかもこの研究はたった数年前に発表された、割と最近のデータです。

少し前のデータや他国のデータでは、大腸がん検診や乳がんをスクリーニングすることに意味はあったがほかには効果はなかった(つまりいわゆる我が国の健康診断のエビデンスは乏しい)という報告や、そもそも検診なんてやってもなーんも変わらなかった(エビデンスがない)という報告すらあるようです。(原著が引っ張り出されなかったため孫引きになってしまい申し訳ありませんが、予防医学におけるエビデンスの国際的動向https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/26/5/26_763/_pdfをご覧ください。)

じゃあなんでやるのか?いろいろなご意見が専門家によってもあるようですが、基本的に私は「やらないほうがいいというデータがないから」「不安だから」というかなりnegativeな考え方を前提にして行われているように思います。もちろん欧米諸国の方々とは文化も人種も違い、日本と同じように考えてはいけません。しかし、科学的な根拠がないままに健康診断をダラダラと続けることもあまりよいことではありません。

なぜなら、病気ではないのにもかかわらず過剰な精密検査をすることになってしまう可能性があることや、検査そのものによる害・副反応、費用・精神的・肉体的・時間的苦痛等の不利益がもたらされることがあるからです。ご経験のある方もいるかもしれませんが、「検診で引っかかったから精密検査いったけど何ともないって言われた!心配して焦った~」ということになりかねないからです。焦った~くらいで終わればいいですが、何件も病院をはしごしたり、検査入院をして挙句の果てによくわからないといわれたりしたら、誰もが不安になり、ハッピーになる人はいないと思います。とはいえ、検査をしないということもなんとなく不安だという意見もあると思いますし、私も理解はできます。

だからこそ日本人にはあまり科学的根拠ということを考えずに、「風邪を引いたら抗生物質を飲むと治る気がする」とか「風邪薬を飲めば早くよくなる」とか、思い込みといいましょうか気持ちの問題で治療が行われているようなところもあるのかもしれません。これは単純に患者さんの知識不足とかそういうことではなくて、我々医者の問題や、処方や検査をすればするほど売り上げにつながるという日本の医療制度にも問題があるのだと思います。また、欧米人とは違う、日本人あるいはアジア人らしさなのかもしれませんが、それはわかりません。

ちなみに風邪に抗生物質を使うことは基本的に意味はないですし、いわゆる総合感冒薬が風邪を早く治すというエビデンスは少なくとも一般的ではありません(私は聞いたことありませんが、勉強不足なだけかもしれません・・・)。米国などでは風邪=ビタミンを飲むという感覚(これにもエビデンスはないようです)ですし、最近伺ったドイツの先生の話は風邪=早く帰って寝ろ、ということでした。感冒についてのエビデンスをよくまとめられている薬剤師さんのブログもご参照ください。

ただし健康診断には意味がないといっているわけではありません。たまたまですが、私の経験として市の検診にいらした方を何となく診察していたら、甲状腺が腫れていることに気づき、「なんか変だから超音波とかどうでしょうか?」と提案→翌週にエコー検査をしてみたらなんとがんのごく初期だったという超ラッキーな例にも遭遇したことがあります。その患者さんにはめちゃくちゃ感謝されましたが、はっきり言って運だったと思います。(とんでもなく珍しい確率です)

そういうラッキーに巡り合えるか、あるいは前述のようにいろいろ追加検査をさせられて結局何でもなかったとアンラッキーになるかはやってみないとわかりませんが・・・。

いずれにせよエビデンスという科学的な観点から行くと、健康診断の有用性は??といわざるを得ません。

じゃあがん検診は?

私はがんの専門家でもないので、詳しいことはよく知りませんが、少なくとも便潜血反応検査(大腸がん)の有用性は私でも知っていますし、とても簡便にできるため日本の人間ドックでも広く利用されていると思います。

子宮がん検診・乳がん検診についても有用性を認める報告が多く、米国でも1~2年ごとに受けるように勧告されているようです。年齢や人種によっても違うでしょうし、子宮頸がんに関してはウイルス感染症によるものでもあるため、今後変わっていく余地は十分にあると思いますが、いずれにせよ日本人でそれが効果があるのかどうかはわかっていません・・・。乳がんに関しては年齢によってかなり詳しく分けられているようですが、その背景の知識が私にはないのでよくわかりません・・・。

子宮頚がんに関しては明確にワクチンを打ちなさいとWHOからも日本は勧告を受けているようですが、いろいろと難しい問題になっていくのでここでは割愛します・・・。ちなみに米国は男性もHPVという子宮頸がんの原因になるウイルスに対するワクチンを接種するように勧告しているようです・・・。

問題はほかの検診で、肺がん検診や胃がん検診・前立腺がん検診(PSA測定)を含めて、エビデンスのあるがん検診は存在しないようです。

この辺りは深く語るほどの知識はありませんので、専門の先生に教えていただきたいくらいです。

人間ドックもやったから安心という幻想は捨てるべき

ここまで長くなりましたが書いていると、お分かりいただける方もいるかもしれません。つまり、人間ドックってあまりエビデンスもないのです。意味がないとは言いません。実際にこれで命を救われた方もいるはずで、万人が受けるべきとか、万人が受ける必要はないとかそういうわけではないと思います。

人間ドックを毎年受ければよいとか、安心とかいうことはないです。なぜ強く感じたかというと、私の母は早期肺がん(stageⅠb)を人間ドックで見つけましたが、父と私、親子で医者にも関わらず力及ばず、約6年の間に進行し帰らぬ人となりました。つまり身をもって、人間ドックに、がん検診にエビデンスはないということを体感してしまったからです。

健康への意識付けが大事

人間ドックを受けたほうがいいとは私は決して思いませんが、それでも人間ドックを受けようとする、つまり健康に対する意識をもつことが一番意味のあることだと思っています。なのでみなさん、人間ドックを受けたり検診をうけたりすることは、意識付けのために重要なことだと思っておいて損はないのではないでしょうか。

私個人的には、こういった今までの科学的な証拠(エビデンス)をよく理解していただき、いつでも自分が病気になり死に対する恐怖を味わう可能性があることを日ごろから持っていることこそが大事なのではないかと思っています。つまり、健康に対する意識付けをすることが最も健康に対して効果的なのではないかということです。

私の考えはもちろんエビデンスはありません。しかし、親の、友人の、兄弟の、子供の、妻の死を一度でも意識して考えていくようにすると、その人たちに対する本音が見えてくるようになるのではないかと、母が亡くなってから特に思います。

また、死までの時間を覚悟し、家族と共有できたことも人間ドックを受けた意義があったのではないかと思いました。突然「あと半年です」といわれたよりは、みな家族で時間を共有できたことはよかった面もあったと思います。

以上長くなりましたが、健康について皆様に考えていただきたくてちょっと長い文章になりました。

そしてブログ記事としては不十分かもしれませんが、疲れて眠くなったのでもう寝ますzzz

まずは健康への意識付けをし、長い期間楽しく元気に生きて、投資をがんばるためにも、体を大切にしましょう。

以上、日曜日なのに当直で自分の身を削っているアイジュより・・・

あれ( ;∀;)

【参考文献】ほかにもいろいろありましたが、眠かったのでねます・・・

Jørgensen, T., et al., “Effect of screening and lifestyle counselling on incidence of ischaemic heart disease in general population: Inter99 randomised trial.” BMJ, 2014. 348:g3617.)

子宮頸がんについてのまとめ

Holme Ø, Bretthauer M, Fretheim A, Odgaard-Jensen J, Hoff G. Flexible sigmoidoscopy versus faecal occult blood testing for colorectal cancer screening in asymptomatic individuals. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013.

Evan R. Myers, MD [et al]:Benefits and Harms of Breast Cancer Screening A Systematic Review. JAMA. 2015;314(15):1615-1634. doi:10.1001/jama.2015.13183

Oken MM, Hocking WG, Kvale PA, Andriole GL, Buys SS, Church TR, Crawford ED, Fouad MN, Isaacs C, Reding DJ. Screening by chest radiograph and lung cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian (PLCO) randomized trial. JAMA. 2011;306:1865-73.

Manser R, Lethaby A, Irving LB, Stone C, Byrnes G, Abramson MJ, Campbell D. Screening for lung cancer. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013.